「CFOが欲しい」と考えた社長の多くは、すぐに二者択一を迫られる。優秀な人材を採用するか、外部のCFO顧問に委託するか。しかし、この問いの立て方自体が間違っている。採用と外部委託は「どちらを選ぶか」の選択肢ではなく、そもそも解くべき課題が違う。年商1億円から30億円のSaaS企業で、この誤解が原因で半年以上の時間を無駄にしているケースを何度も見てきた。

この記事のポイント


二者択一は誤り — 採用と外部は別の機能

社内CFOの採用と外部CFO顧問の委託を「同じ役割を誰にやらせるか」と捉えると、比較検討のフレームが破綻する。この2つは組織の中で果たす機能が根本的に異なる。

社内CFOが担うべき機能は、日次・週次の財務運用だ。入出金の承認、経費精算の管理、月次決算のクローズ、税務申告の進行管理、従業員の経理チームのマネジメント。これらは毎日オフィスにいて、社内の業務フローに深く入り込んでいないと回らない。年商5億円の企業であれば、経理担当3〜5名を束ねる存在として、月額120〜180万円の人件費をかける価値がある。

外部CFO顧問が担う機能は、社長の意思決定を加速させることだ。資金調達のストラテジー設計、銀行との融資交渉、投資家向け資料の作成、セグメント別損益の構築、M&Aの評価。これらは月に数回の密度で十分だが、その数回に高度な専門性が求められる。外部委託の費用は月額30〜80万円が相場で、社内採用の半額以下で戦略機能を調達できる。

念のため補足する。年商3億円以下の企業で「フルタイムの社内CFO」を採用しようとすると、月額100万円以上の人件費に対して、その能力を活かす仕事量が足りない。戦略的な財務課題が月に数回しか発生しない規模では、CFOの8割の時間が経理業務に充てられ、本来の役割が果たされない。採用したCFO自身も「やることが経理と変わらない」と不満を抱え、1年以内に離職するケースが多い。

なぜ「どちらか」で考えたくなるのか

社長が二者択一に陥る理由は2つある。1つ目は、CFOという役割を「財務の責任者」という単一の機能として捉えていること。2つ目は、外部委託の費用を「人件費の代替」として比較していること。しかし正しい比較は「何を社内で持ち、何を外部から調達するか」という機能単位での検討だ。人事で「採用担当者を雇ぶか、リクルートエージェントを使うか」と考えるのと同じで、両方を使うのが当然の企業が多い。


ARR別の最適配置 — 3つのフェーズ

年商(ARR)の規模によって、社内に持つべき財務機能と外部に委託すべき機能の組み合わせが変わる。以下の3フェーズで整理する。

ARR1〜3億円: 外部委託のみ

この規模の企業では、経理は代表の補佐または1〜2名の担当者で回る。月次決算、税務申告、入出金管理は既存の体制で対応できる。ここでCFOを採用しても、戦略的財務業務の発生頻度が月に1〜2回しかなく、CFOの稼働率が著しく下がる。

外部CFO顧問を月2〜4回(月額30〜50万円)で活用し、以下に絞って依頼する。

年商2億円のAIスタートアップの例を出す。同社はCFO採用を半年間検討した末に、外部CFO顧問(月額40万円・月4回)に切り替えた。結果として、銀行からの追加融資8000万円を3ヶ月で確保し、同時に月次の資金繰り予測の精度が月次売上の3%以内に改善した。CFO採用の予算(月額120万円)を開発人材の採用に回すことができた。

ARR3〜10億円: 外部委託+経理責任者採用

ARR3億円を超えると、経理業務の量が既存の体制では処理しきれなくなる。従業員数が30〜80名に達し、給与計算、経費精算、複数プロダクトの収益管理が毎日の業務として発生する。ここで必要なのは「CFO」ではなく「経理チームを束ねる責任者」だ。月額60〜90万円で経理経験5年以上の人材を採用し、日次・週次の財務運用を任せる。

外部CFO顧問は継続し、役割をシフトさせる。

年商7億円のBPaaS企業では、経理責任者(月額75万円)と外部CFO顧問(月額60万円)を組み合わせた。従来のCFO採用計画では月額150万円以上を見込んでいたが、機能別の最適配置で月額135万円に抑えつつ、戦略的財務機能の質を維持した。

ARR10〜30億円: 外部委託+社内CFOの併用

ARR10億円を超えると、社内CFOを採用する合理的な理由が生まれる。日常的な財務運用の規模が大きく、管理会計の更新頻度が週次になり、投資家・銀行・監査法人との対応が常時発生する。ここでは月額150〜250万円で実務経験のあるCFOを採用し、社内の財務体制を固める。

ただし、このフェーズでも外部CFO顧問の併用を推奨する。理由は3つある。


外部委託で解く3つの課題

ARRの規模に関わらず、外部CFO顧問に依頼すべき課題が3つある。これらは社内CFOがいても、外部の知見とネットワークが不可欠な領域だ。

1. 銀行対応

非上場企業の資金調達の主戦場は、依然として銀行だ。しかし銀行対応は「行って話してくる」以上の準備が必要になる。融資担当者が審査部に通すために必要な情報は、事業計画書、資金繰り表、過去3期の決算書、そして経営者の熱量を数値で裏付ける管理会計データだ。

外部CFO顧問が銀行対応で提供する価値は、次の3点にある。

年商4億円のSaaS企業が、外部CFO顧問の銀行対応支援で得た成果を示す。当初メインバンク1行から提案された限度額1.5億円(変動金利)の条件を、3行同時交渉の結果、限度額2.5億円(固定金利・5年)に引き上げた。外部顧問の費用(年間480万円)に対して、金利差と限度額増で得たキャッシュメリットは年間700万円以上だった。

2. 資金調達

デットファイナンス(銀行融資、デットファイナンスファンド)とエクイティファイナンス(VC、PE、エンジェル)の選択は、企業の成長戦略と密接に絡む。年商5億円で成長率40%のSaaS企業であれば、エクイティによる資金調達が選択肢に入る。逆に年商8億円で成長率15%の企業であれば、デットファイナンスが現実的な道になる。

外部CFO顧問は、この判断を数値で裏付ける。

特にエクイティ調達の場合、社長単独で投資家と交渉すると、「出せる条件」より「提示される条件」で話が進む。外部CFO顧問が財務モデルを用意し、「この条件なら受諾できる、これを下回るなら別の手段を選ぶ」という明確な基準を持って交渉に臨めるかどうかが、調達条件の善し悪しを大きく左右する。

3. 管理会計の構築

決算書を作る財務会計と、経営判断に使う管理会計は別物だ。年商3億円以下の企業の多くは、管理会計が存在しない。月次の損益計算書はあるが、それは「何が起きたか」の記録であって、「何をするべきか」の指針ではない。

管理会計の構築で外部CFO顧問が提供するのは、次の設計と運用だ。

年商6億円のAI企業の事例を紹介する。同社は外部CFO顧問と3ヶ月かけて管理会計を構築した。結果として、従来「全体で黒字だから問題ない」と見えていた収益構造の中に、エンタープライズ向けプロダクトのGross Marginが35%に落ち込んでいることが判明した。インフラコストの按分方法を見直し、価格改定を実行したことで、6ヶ月後に同セグメントのGross Marginが58%に改善した。


今月から判断するための4つの基準

採用か外部委託かの議論を進める前に、自社の現状を次の4つの基準で確認する。この確認は今月中に完了させることができる。

この4つの基準で「外部委託が優先すべき課題」が2つ以上あれば、まず外部CFO顧問の活用から始める。社内CFOの採用は、その後3〜6ヶ月かけて進めればよい。採用と外部委託は同時に走らせることで、社内体制の構築中も戦略的財務機能を止めない設計になる。

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