PEリターンの源泉が静かに、しかし確実に変わっている

プライベートエクイティ(PE)ファンドは長年、「借入で買って、マルチプルが広がったところで売る」というモデルで圧倒的なリターンを生み出してきた。だが、その前提が今、根底から揺らぎつつある。

McKinsey Global Private Markets Review 2026の分析によれば、2010年から2022年にかけて記録されたPEリターンの約59%は、レバレッジ効果とマルチプル拡大(購入時より高いEV/EBITDA倍率での出口)によって説明される。つまり、事業そのものの成長や改善ではなく、金融エンジニアリングと市場の追い風がリターンの主役だったのだ。

しかし、金利上昇、マルチプルの頭打ち、LP(有限責任組合員)の目の肥え化が同時に進行するいま、この方程式はもう通用しない。オペレーショナル価値創造——買収後の事業改善による収益力の向上——が、PEリターンの新しい主役として台頭している。

「金融工学」から「事業づくり」へのシフト

レバレッジとマルチプルがリターンの59%を占めた時代

2010年代、海外のPE市場は歴史的な低金利とマルチプル拡大の恩恵をフルに受けた。安い資金を借り入れで積み上げ、市場全体の評価倍率が上がるなかで出口を迎えれば、本業の成長が鈍くても高いIRRを叩き出せた

この構造は多くのGP(運用組織)にとって心地よかった。産業知見が浅くても、金融スキルとタイミングさえ合致すればリターンが出せたからだ。だがそれは同時に、「本当に事業価値を伸ばす能力」が問われない時代でもあった。

金利上昇とマルチプル頭打ちが変えたゲームルール

2023年以降の金利上昇は、このモデルに致命的な打撃を与えた。借入コストが上昇すればレバレッジの効果は縮小する。海外主要市場でのマルチプルは高止まりしつつも拡大余地が狭まり、新興市場でもかつてのような倍率上昇は見込みにくくなっている。

結果として、今後のPEリターンの差は「買った後に何をするか」で決まるという認識が、業界のコンセンサスになりつつある。

「これからのPEでは、レバレッジとマルチプルに依存せず、オペレーショナルな価値創造でリターンを稼ぐ力だけが、GPの持続的な差別化要因になる。」

スペシャリスト vs ジェネラリスト——データが示す圧倒的な格差

McKinsey GPMR 2026のもう一つの重要な発見は、ファンドの戦略类型とパフォーマンスの関係だ。

実に4ポイントのIRR差が、戦略类型だけで生まれている。これは偶然の格差ではない。スペシャリストが優位に立つ理由は、大きく三つに整理できる。

① 産業知見の深さが「見える化」を可能にする

特定の産業に絞って投資を続けるスペシャリストは、業界の構造、価値ドライバー、リスク要因を骨の髄まで理解している。デューデリジェンスの質が段違いであり、買収前に「どこを直せば価値が上がるか」を的確に見抜ける。

② 運営改善の実行力が段違い

産業に詳しいだけでなく、運用ポートフォリオ企業の経営に直接参画するオペレーショナル・パートナーを擁するケースが多い。彼らは事業計画の策定にとどまらず、営業組織の再構築、サプライチェーンの最適化、デジタル変革まで実行レベルで伴走する。

③ 政策の追い風を読み切るアンテナ感度

特定産業に集中しているからこそ、規制変更、補助金制度、産業政策の方向性を他の誰より早く捉えることができる。エネルギー転換、ヘルスケア制度改革、インフラ投資拡大——こうした政策の追い風に乗る産業への特化が、リターンのボスタープランとして機能している。

ジェネラリストが生き残るための条件

もちろん、ジェネラリストがすべて劣っているわけではない。広範なネットワーク、クロスセクターな知見の応用、ポートフォリオ全体の分散効果には独自の価値がある。

ただし、これからの環境下で競争力を維持するには、ジェネラリストもオペレーショナル能力を劇的に引き上げる必要がある。具体的には以下が求められる。

  1. 産業横断的なオペレーショナル・チームの構築——各セクターに詳しい専門家を内部化する
  2. データ駆動型の価値創造プログラム——感覚ではなく定量分析に基づく事業改善
  3. 出口戦略の多様化——マルチプル拡大に依存しないexit設計

axxeioが考える「スペシャリストの強み」とは

axxeioは、政策の追い風がある産業に特化したM&A・投資アドバイザリーという立場から、この潮流を近距離で見ている。

特に以下の領域で、スペシャリストとしての強みを活かしている。

大切なのは、「追い風がある産業を選ぶ」ことと「その産業を深く理解すること」の両方が揃って初めて、オペレーショナル価値創造が機能するという点だ。どちらか一方では足りない。axxeioはこの両輪を担保する存在として、投資家と事業会社の双方に向き合っている。

レバレッジに頼れない時代に何を問うべきか

PEファンド、M&A実務者、そして企業経営者のいずれにとっても、今回のシフトが意味するメッセージは明確だ。

「安いお金で買って、高いお金で売す」という方程式はもう信用できない。これからの価値は、買収後に事業をどう変え、どう成長させたかで決まる。それは言い換えれば、オペレーショナル価値創造の能力こそが、GP評価の新しい基準になるということだ。

投資判断の軸も変わる。これまでは「どのくらいレバレッジを積めるか」「マルチプルはどれくらい広がりそうか」が最初の問いだった。これからは、「買収後に何を変えられるか」「変えるための実行力はあるか」「その産業の構造的理解は十分か」が最初の問いにならなければならない。

スペシャリスト優位のデータは、この問いに対する一つの明確な答えを提示している。深い産業知見と政策感度を持つ専門家集団が、これからのM&A・PE市場で主役になる。その流れはもはや逆転しない。

まとめ

レバレッジに頼れない時代のM&A・投資戦略について、より深く議論したい方はaxxeioへご相談ください。

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